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特に観るものを決めずに映画館へ行った日に、思いがけず心に残る一本に出会うことがあります。先日観た「Bad Lieutenant Tokyo」が、まさにそれでした。正直に言えば、上映作品のラインナップを眺めても「これだ」というものがなく、よく分からないまま選んだ一本です。それが、観終わったあとにしばらく席を立てないような作品だったのですから、映画というのは分からないものです。
タイトルの意味すら知らずに観に行った
恥ずかしながら「ルーテナント(Lieutenant)」という言葉の意味を知りませんでした。調べてみると、刑事や警部といった階級を指す言葉のようです。つまり「バッド・ルーテナント」は「悪い刑事」。観終わってから改めてタイトルを思い返すと、たしかにこれ以上ないほど的確なタイトルだったと感じます。
この作品はハリウッドと日本の共同制作で、ハリウッドのスタジオも制作に関わっています。エンドロールが英語で流れていくのを見ながら、ああ本当に海外のスタッフが入っているんだな、と実感しました。日本の裏社会を描きながら、どこか外から見た視点が混ざっている。その距離感が、作品全体の独特な手触りを作っているように思います。
昭和の歌舞伎町で起こる猟奇的な事件
舞台は昭和の歌舞伎町です。今の時代ではありません。ネオンと雑踏、そして湿った路地。あの時代特有の空気感が画面いっぱいに広がります。そこで猟奇的な事件が次々と起こり、一人の危ない刑事がその深層へと入り込んでいきます。
物語が進むにつれて、そこにFBIの捜査官が加わります。この捜査官がまた、まともではない。真っ当な正義の味方が外からやってきて事態を解決する、という展開を期待していると、見事に裏切られます。二人の危うい人物が泥沼のヤクザ社会の中でぐちゃぐちゃに絡み合っていく。そういう作品です。
シンデレラが演じるFBI捜査官
FBI捜査官を演じているのはリリー・ジェームズです。どこかで観たことがあると思っていたのですが、彼女は以前「シンデレラ」を演じています。あの役と、今回の危ない捜査官。このギャップはなかなかのものです。しかし、だからこそ良かったのかもしれません。清らかな像を知っているからこそ、泥にまみれる姿が効いてくる。キャスティングの妙を感じました。
取り締まる側が、染まっていく
この映画の核心は、裏社会とそれを追う刑事との微妙な関係にあります。本来であれば裏社会を取り締まる立場にいる刑事が、その裏社会に少しずつ染まっていく。そして、染まった先に何があるのか。物語はその一点に向かって進んでいきます。
アクションは連発で、暴力的なシーンもたくさんあります。目を背けたくなる場面も正直ありました。それでも展開そのものが面白く、最初から最後まで引き込まれました。暗い映画です。終始、光の届かない場所の話です。それでも退屈する瞬間がなかったのは、やはり脚本と演出の力だと思います。
ハッピーエンドにはならない
結末は、悲しいという言葉が一番近いでしょうか。切ない闇の世界を感じさせる終わり方で、ヤクザ映画の世界というのはやはりハッピーエンドにはならないのだな、と妙に納得しました。すっきりしない。心は確実に重くなります。
ただ、その重さの中にも、人の優しさのようなものが確かにありました。暗い物語だからこそ、ふとした場面で見える優しさが身にしみる。そういう種類の映画です。後味の悪さと温かさが同居している、と言えばいいでしょうか。
エンドロールの一曲
そして最後、エンドロールで流れる曲がまた良かったのです。重たい気持ちのまま座席に沈んでいたところに、あの曲が流れてきて、思わず「おお」と声が出そうになりました。映画の余韻というのは、最後の数分で決まることがあります。この作品は、まさにそのタイプでした。
働かない生活と、平日の映画館
会社を辞めて8年が経ちました。働かない生活を続けていると、こうして予定もなくふらりと映画館に行き、よく分からない映画を選んで観る、という時間の使い方ができます。事前に評判を調べることもなく、ただその場で決める。外れることもありますが、たまにこういう当たりを引きます。
「Bad Lieutenant Tokyo」は、万人におすすめできる作品ではありません。暗く、重く、暴力的です。それでも、骨のあるヤクザ映画を観たい方、昭和の歌舞伎町という舞台に惹かれる方には、ぜひ観ていただきたい一本です。心は重くなりますが、観て損をしたとは思わないはずです。